Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
尊が休日の殆どは自宅でレシピの開発をしている事を知っている。
「──って、なんだよ兄ちゃん、俺には友達連れ込むなとか言っておいて、自分は連れ込んでんのかよ」
言われて莉子は頬を真っ赤に染めた。
「ここは俺の家だ、誰を連れ込もうと俺の勝手で、お前が連れ込む権利は一切合切ない、覚えておけ」
「ちぇー。……ってさ。その人、兄ちゃんの彼女?」
言われて尊は莉子を見下ろした。穴が開くかと思えるほどカレイを凝視している莉子は、拓弥の存在を無視しようとしているか如くだった。ただ会話は聞こえてはいるのだろう、耳まで赤くなっている。
思わず小さな溜息を吐いた。
(ここで「そうだ」って言うのも手なんだけどなあ……)
思いながらも、口は違う事を言っていた。
「友達だよ」
言ったが、拓弥は莉子を凝視していた。ただじっと見ているのではない、なにか探るような目だった。 なんだよ、と促そうとすると、
「……どっかで、会ったことあります?」
拓弥が確認するように聞いた、それに尊は呆れたように溜息を吐く。
「お前がそんな安っぽい口説き文句を吐くとはな」
兄弟で同じ女に惚れるとは、とも思った。もうこの家には連れてこない方がいいだろうとも。
「いや、そうじゃなくてさ。本当に、どっかで……うーん、つい最近会ったんだよ……」
莉子は何も言わない、これでもう少し社交性があれば「もうお上手ですね」くらい返すだろうが、まあ莉子では無理だろうなと尊だって判った。
しかし莉子を見てそれがただならぬ状況であると、瞬時に察した。 莉子は青ざめ、手が震えている。
莉子には判る、拓弥が誰と会ったような感覚になっているか。 姉の香子だ。ロックバンド界の一角をリードしているCacco with bangのボーカルである、ちょうど拓弥くらいの年齢、10代後半から20代前半くらいまでがコアなファン層だ。テレビや動画で見る事は確実にあるだろう。拓弥本人がファンでなくても周りにファンはいるかも知れない。
「──って、なんだよ兄ちゃん、俺には友達連れ込むなとか言っておいて、自分は連れ込んでんのかよ」
言われて莉子は頬を真っ赤に染めた。
「ここは俺の家だ、誰を連れ込もうと俺の勝手で、お前が連れ込む権利は一切合切ない、覚えておけ」
「ちぇー。……ってさ。その人、兄ちゃんの彼女?」
言われて尊は莉子を見下ろした。穴が開くかと思えるほどカレイを凝視している莉子は、拓弥の存在を無視しようとしているか如くだった。ただ会話は聞こえてはいるのだろう、耳まで赤くなっている。
思わず小さな溜息を吐いた。
(ここで「そうだ」って言うのも手なんだけどなあ……)
思いながらも、口は違う事を言っていた。
「友達だよ」
言ったが、拓弥は莉子を凝視していた。ただじっと見ているのではない、なにか探るような目だった。 なんだよ、と促そうとすると、
「……どっかで、会ったことあります?」
拓弥が確認するように聞いた、それに尊は呆れたように溜息を吐く。
「お前がそんな安っぽい口説き文句を吐くとはな」
兄弟で同じ女に惚れるとは、とも思った。もうこの家には連れてこない方がいいだろうとも。
「いや、そうじゃなくてさ。本当に、どっかで……うーん、つい最近会ったんだよ……」
莉子は何も言わない、これでもう少し社交性があれば「もうお上手ですね」くらい返すだろうが、まあ莉子では無理だろうなと尊だって判った。
しかし莉子を見てそれがただならぬ状況であると、瞬時に察した。 莉子は青ざめ、手が震えている。
莉子には判る、拓弥が誰と会ったような感覚になっているか。 姉の香子だ。ロックバンド界の一角をリードしているCacco with bangのボーカルである、ちょうど拓弥くらいの年齢、10代後半から20代前半くらいまでがコアなファン層だ。テレビや動画で見る事は確実にあるだろう。拓弥本人がファンでなくても周りにファンはいるかも知れない。