Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
「一気に、攻め……?」
「気にしないでいいから」
きょとんとする莉子に、尊は爽やかな笑みを向けた。
*
食事が終わると、尊は片づけを拓弥に命じる。
「ええ!? なんで!?」
「食べた代金代わりだ、安いもんだろ?」
「え、じゃあ、私も……」
むしろ自分は本当のタダ飯をいつも頂いている、申し訳なくなる。
「たまにはゆっくりしようよ、コーヒーでも淹れるから」
尊は笑顔で言ってキッチンに向かう、その支度をしようと言うのだろう。
思えば、いつも。
尊のレストランでも莉子の家で食事を作る時も、用が済めば、はい、さようなら、だった。 莉子もゆっくりお茶を──したい、と思ったが。
「ごめんなさい、片付けなきゃならない仕事があるので……」
「そっか、いいよ、気にしないで」
尊にしても思い付きだった、仕事と言われれば納得するしかない。
「んじゃあ、家まで送るよ」
「え、送るほどの距離じゃ……!」
徒歩何十歩だろうか。
「うん、いいよ、俺もちょっと外出するから、ついでに」
言ってスマホを手に取り、ボディバックを拾い上げた。
「え……はい……」
「じゃあ、拓弥、外、出るならちゃんと戸締りはしろよ」
「判ってるよ!」
両手を泡だらけにしながら拓弥は怒鳴り返した。
玄関を先に出たのは莉子だ、その後を続いて出た尊は玄関に鍵をかける、それを莉子は背を向けたまま待った
。
(なんか……家にふたりきりより緊張するなんて……!)
「お待たせ」
頭上で声がして、思わず振り返った。ちょうど頭一つ分は高い尊がいた。
並んで歩き出す、男性の隣で歩く経験すら、莉子にはなかった。
(藤堂さん……背、高いな……)
それまでも感じていたが、並んで歩くと余計に感じた。
(なんか……あったかい……)
階段を降りる、降り切って廊下を曲がれば莉子の部屋だ、間もなく別れとなると思うと、急に淋しく感じた。
(藤堂さん……)
莉子は踊り場から階段へ踏み出す足を止めた、内側を歩いていた尊は、一段降りてからそれに気付いて止まった。
「莉子?」
俯き加減の莉子の様子に気付いた。