Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
3.
藤堂拓弥は、大学構内のカフェテリアで、興奮気味に話していた。
「マジなんだよ! Caccoに双子の妹がいてさ! マジ、そっくりでさ! 声もすんげー似ていた!」
「双子なんて聞いた事ねえな」
「本人なの隠してるんじゃね? 会わせろよ」
数人の友人たちは疑心暗鬼だ。
「いや、本当にCacco本人じゃないらしい! 写真は見せてもらった、その人は本当に双子で」
「んじゃあ、Cacco本人が、妹になりすましてるかもよ?」
「マジか!」
「えー、会わねえと判らねえな、真偽の確認をしたいー」
「んじゃ、アニキに言っとくよ! お前ら呼んでいいかと、リコさん呼んで欲しい、だよな! まあ期待はすんなよ!?」
「あわよくば交際まで持ち込みたいのにぃ」
「えー、それはやめた方がいいぜー? アニキ狙ってるみたいなんだよ、そんなのにちょっかい出すと殺されるぞ」
「あー、藤堂の兄ちゃんかー、めっちゃイケメンのシェフだよなー、それは分が悪いかも」
「この間も雑誌に取り上げられたな」
「ああ、そうなんだ。最近は取材も面倒くさいとか言ってたけど、やってるんだ」
「いいなあ、有名人。って、藤堂はなんでそっちにはいかなかったの?」
「料理人? 親に反対されたから。きちんと大学でも出て、サラリーマンになるのが一番だって」
「へえ? お兄さん、成功してるのに?」
「うち、実家も飲食店で。中華料理屋なんだけど、そんなに順風満帆な訳じゃないから、飲食店は甘くないぞってアニキの事も随分心配してた。今はいいけど、とも言ってたし」
「そっか、そうだよなあ。人気無くなったらあっという間に閑古鳥だよなあ」
「お、だからKKのCaccoを狙ってる?」
「だから、Caccoじゃねえっての、その妹!」
「いやいやだから、本人じゃねえの?」
「え、本人なのかな? 俺。誤魔化された?」
「うぉぉぉぉ。藤堂! マジ、会わせろ!」
そんな仲間内の盛り上がりを、メンバーの一人は黙って聞いていた。 橋本光、いつも物静かな男だが、今日は殊更だった。