Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
『Caccoは作詞作曲する時はKKって名乗ってんだけど! Cacco with bangの曲は殆どKKが作ってるんだぜ!』
ついでとは言わないが何曲か聞いた、若い子が好きそうな音楽だと思った、いや尊だってまだ若いが……。
「表向きは姉のペンネームになってます。でも姉はチェックするだけで創作活動は一切していません」
「──ゴーストライター?」
莉子は大きく項垂れた、肯定を意味していた。
「……決して口外してはいけないこと?」
莉子は黙って頷く。
「そっか……」
尊は天井を見上げる。きちんと見た訳ではないが、楽曲の九割五分はKKの文字があったと思う。それらを全て姉に代わって莉子が作っているとは──。
「そっか、じゃあ最大の秘密、だね」
莉子は小さく頷き、小さな小さな声で言う。
「誰にも……言わないで」
「当たり前だろ。莉子さんが秘密を共有してくれただけで嬉しい」
途端に莉子の両目から涙が溢れ出した。
「莉子……」
「いいの? こんな嘘ばっかついてるのに、あなたに好きって言ってもらう価値なんか、ないのに……!」
涙はあっという間に顎から滴り落ちて、莉子の膝の上のナフキンを濡らした。
ああ、と尊は思う。
莉子がどれほど愛に飢えているのか、よく判った。莉子の人生の全てを知っている訳ではないが、自分が満足するほどの愛情を感じてこなかったのだろう事は想像に難くない。誰かに愛される、誰かに必要とされるのは、自分の価値を感じる瞬間だろうに。それを莉子は、姉のゴーストライターをすることによって見出していたのかも知れないとさえ思えた。姉に必要とされ、姉が受ける称賛を自分のものすり替えて──尊は小さな溜息を吐いてから立ち上がった、莉子は尊が怒って去ってしまうのだろうと思う。
(終わった)
いつもそうだ、はっきりと好きだと意識する前に、男性は自分の前から去る。いや女友達もだ、親しくなる前に香子が仲良くなっていた。それから自分の気持ちに気が付く、自分によく似た香子に笑いかける男性や友人の姿を見て心を痛めていた。
ついでとは言わないが何曲か聞いた、若い子が好きそうな音楽だと思った、いや尊だってまだ若いが……。
「表向きは姉のペンネームになってます。でも姉はチェックするだけで創作活動は一切していません」
「──ゴーストライター?」
莉子は大きく項垂れた、肯定を意味していた。
「……決して口外してはいけないこと?」
莉子は黙って頷く。
「そっか……」
尊は天井を見上げる。きちんと見た訳ではないが、楽曲の九割五分はKKの文字があったと思う。それらを全て姉に代わって莉子が作っているとは──。
「そっか、じゃあ最大の秘密、だね」
莉子は小さく頷き、小さな小さな声で言う。
「誰にも……言わないで」
「当たり前だろ。莉子さんが秘密を共有してくれただけで嬉しい」
途端に莉子の両目から涙が溢れ出した。
「莉子……」
「いいの? こんな嘘ばっかついてるのに、あなたに好きって言ってもらう価値なんか、ないのに……!」
涙はあっという間に顎から滴り落ちて、莉子の膝の上のナフキンを濡らした。
ああ、と尊は思う。
莉子がどれほど愛に飢えているのか、よく判った。莉子の人生の全てを知っている訳ではないが、自分が満足するほどの愛情を感じてこなかったのだろう事は想像に難くない。誰かに愛される、誰かに必要とされるのは、自分の価値を感じる瞬間だろうに。それを莉子は、姉のゴーストライターをすることによって見出していたのかも知れないとさえ思えた。姉に必要とされ、姉が受ける称賛を自分のものすり替えて──尊は小さな溜息を吐いてから立ち上がった、莉子は尊が怒って去ってしまうのだろうと思う。
(終わった)
いつもそうだ、はっきりと好きだと意識する前に、男性は自分の前から去る。いや女友達もだ、親しくなる前に香子が仲良くなっていた。それから自分の気持ちに気が付く、自分によく似た香子に笑いかける男性や友人の姿を見て心を痛めていた。