Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
(どうして……)
涙を拭おうとした手を、尊が握った。
「──え?」
尊は去った訳ではなかった、莉子のすぐ脇に立っていた。 莉子が思わず見上げると、尊の優しく微笑む瞳とかち合った、怒ってなどいないとはっきりと判る。
尊は空いた手で莉子の後頭部に手を掛ける、やんわり力を込められ、莉子は素直に尊の腹に顔を埋めていた。 数瞬してから状況に気付く。
「は……え……っ! 尊、さん……!」
離れようとするが、藤堂に押さえられていて離れられなかった、手を掛けて力を入れようとしたが、尊の体に腕を突っ張るのは気が引けてできずにいると、頭上から声がかかる。
「まあ、びっくりはしたけど……話してくれたのは嬉しいよ、俺を信用してくれたってことでしょ?」
「信用……え、あ、はい……」
「え、違うの?」
「あ、いえ、大丈夫です……」
単に、嘘が心苦しかっただけだが、話したのは確かに信用、かもしれない。
「それが莉子の仕事ならいいじゃない。お姉さんの代わりだろうが莉子は莉子だ」
尊は優しく莉子の髪を撫でる、莉子は小さくなって大人しく撫でられていた。
「俺は本当に莉子が何してるか気にしたことなんかないし。見たまんまの莉子を好きになった、それでいいだろ?」
莉子は頷いた、何度も、何度も、声も出せずに頷く。
「涙、引っ込んだ?」
言葉に頷くと、ようやく尊の手の力が抜けて、莉子は解放された。 頭にかかる手に軽く上を向かされ、頬の涙の跡を尊はそっと指でなぞった、くすぐったさに莉子は首をすくめる。
「尊、さん……っ」
「すっぴんでよかったね、いくらでも胸を貸せる」
言われて莉子は慌てて俯いた、今日は口紅すらしていない、そんな気力がなかったからだ。 でも確かに今日はそれでよかった、もししていたら尊のコック服を汚してしまうところだった。
「さ、食べよ」
促されて莉子は再びフォークを手にした、刺さったままのサーモンを口に運ぶ。
涙を拭おうとした手を、尊が握った。
「──え?」
尊は去った訳ではなかった、莉子のすぐ脇に立っていた。 莉子が思わず見上げると、尊の優しく微笑む瞳とかち合った、怒ってなどいないとはっきりと判る。
尊は空いた手で莉子の後頭部に手を掛ける、やんわり力を込められ、莉子は素直に尊の腹に顔を埋めていた。 数瞬してから状況に気付く。
「は……え……っ! 尊、さん……!」
離れようとするが、藤堂に押さえられていて離れられなかった、手を掛けて力を入れようとしたが、尊の体に腕を突っ張るのは気が引けてできずにいると、頭上から声がかかる。
「まあ、びっくりはしたけど……話してくれたのは嬉しいよ、俺を信用してくれたってことでしょ?」
「信用……え、あ、はい……」
「え、違うの?」
「あ、いえ、大丈夫です……」
単に、嘘が心苦しかっただけだが、話したのは確かに信用、かもしれない。
「それが莉子の仕事ならいいじゃない。お姉さんの代わりだろうが莉子は莉子だ」
尊は優しく莉子の髪を撫でる、莉子は小さくなって大人しく撫でられていた。
「俺は本当に莉子が何してるか気にしたことなんかないし。見たまんまの莉子を好きになった、それでいいだろ?」
莉子は頷いた、何度も、何度も、声も出せずに頷く。
「涙、引っ込んだ?」
言葉に頷くと、ようやく尊の手の力が抜けて、莉子は解放された。 頭にかかる手に軽く上を向かされ、頬の涙の跡を尊はそっと指でなぞった、くすぐったさに莉子は首をすくめる。
「尊、さん……っ」
「すっぴんでよかったね、いくらでも胸を貸せる」
言われて莉子は慌てて俯いた、今日は口紅すらしていない、そんな気力がなかったからだ。 でも確かに今日はそれでよかった、もししていたら尊のコック服を汚してしまうところだった。
「さ、食べよ」
促されて莉子は再びフォークを手にした、刺さったままのサーモンを口に運ぶ。