Crazy for you ~引きこもり姫と肉食シェフ~
言葉に莉子はウサギから視線を尊に向ける。
「牛や豚なんかだと感じにくいけどね、大量にスーパーに置いてあるから。でも食事をすると言う事は、その命を頂くと言う事だ。動物だけじゃない、植物だって生きてる、その命をもらって俺達は生きてる」
「──食育、ですね」
「そういう事」
微笑む尊に後押しされて莉子は手を合わせると小さな声で「いただきます」と言ってフォークを手にした、ナイフでそっと肉を切り分ける。
小さくなった肉が口に吸い込まれるのを尊は見ていた、今日も莉子はすっぴんだ、桜色の唇に真っ赤なトマトソースが付く様を見ていた、それを舌先が可愛らしく拭う様も。
「……おいし」
呟きに尊は視線をそらしていた、欲望を誤魔化す為に。
「──ああ、そうだ」
尊は視線をそらしたまま言う。
「昨夜、聴いたよ、KKの曲」
言った途端、莉子は泣き出しそうな顔で尊を見つめた。
「それ聴いて、拓弥がよく音楽番組でCaccoの出演をチェックしてたの思い出した。よくタイアップもしてるよね」
CMやドラマの主題歌になることも多い、莉子はただ頷いた。
「まあうろ覚えだけど、テレビの映像とか。ジャケットの写真とか見ても、言うほどお姉さんに似てないじゃない」
現に尊は「何処かで会った」などとは全く感じなかった。
「──え?」
「まあ化粧の仕方とか、衣装も莉子と全然違うからだろうけど。俺は似てるとは思わなかったよ、拓弥だって誰だっけって悩んだくらいだから、莉子が思うほどお姉さんには似てないんじゃないの?」
「そんな事……」
でも確かに、Caccoの時の香子は、少し営業モードではある。
「そんなにしょっちゅう間違えられる?」
「いえ……そもそも人に会わな……」
「だろうね」
尊は笑顔でひどい事言う、でも莉子は言い返せない。
「外に出ないのは、お姉さんの所為?」
「──それも、無いとは言わないですけど……」
単なる出不精、であろうか。
「たまには、一緒に出掛けてみる?」
小さく身を乗り出して、わずかに首を傾げて提案する尊の色っぽい姿に。
莉子は慌てて視線を落としてウサギに集中した、軽い無視を感じた尊は明るく笑う。
「駄目かあ」
莉子は頬を染めて返事に変えた。
そして食後はいつものようにお弁当を受け取って帰る。
「あの、ごちそうさまです」
「いいえ、また明日ね」
そんな尊の挨拶を最後まで聞かずに、莉子は背を向けた。
(お、抵抗)
意図を悟って尊は微笑む。 莉子はキスなりなんなりされたくなくて、さっさと店を出て行った。
「なかなか手強い」
思わず呟いた尊を、ウェイターはいやらしい目つきで見上げる、ふられたのか、とでも言いたげだった。勿論尊は睨み付けて牽制することを忘れない。
「牛や豚なんかだと感じにくいけどね、大量にスーパーに置いてあるから。でも食事をすると言う事は、その命を頂くと言う事だ。動物だけじゃない、植物だって生きてる、その命をもらって俺達は生きてる」
「──食育、ですね」
「そういう事」
微笑む尊に後押しされて莉子は手を合わせると小さな声で「いただきます」と言ってフォークを手にした、ナイフでそっと肉を切り分ける。
小さくなった肉が口に吸い込まれるのを尊は見ていた、今日も莉子はすっぴんだ、桜色の唇に真っ赤なトマトソースが付く様を見ていた、それを舌先が可愛らしく拭う様も。
「……おいし」
呟きに尊は視線をそらしていた、欲望を誤魔化す為に。
「──ああ、そうだ」
尊は視線をそらしたまま言う。
「昨夜、聴いたよ、KKの曲」
言った途端、莉子は泣き出しそうな顔で尊を見つめた。
「それ聴いて、拓弥がよく音楽番組でCaccoの出演をチェックしてたの思い出した。よくタイアップもしてるよね」
CMやドラマの主題歌になることも多い、莉子はただ頷いた。
「まあうろ覚えだけど、テレビの映像とか。ジャケットの写真とか見ても、言うほどお姉さんに似てないじゃない」
現に尊は「何処かで会った」などとは全く感じなかった。
「──え?」
「まあ化粧の仕方とか、衣装も莉子と全然違うからだろうけど。俺は似てるとは思わなかったよ、拓弥だって誰だっけって悩んだくらいだから、莉子が思うほどお姉さんには似てないんじゃないの?」
「そんな事……」
でも確かに、Caccoの時の香子は、少し営業モードではある。
「そんなにしょっちゅう間違えられる?」
「いえ……そもそも人に会わな……」
「だろうね」
尊は笑顔でひどい事言う、でも莉子は言い返せない。
「外に出ないのは、お姉さんの所為?」
「──それも、無いとは言わないですけど……」
単なる出不精、であろうか。
「たまには、一緒に出掛けてみる?」
小さく身を乗り出して、わずかに首を傾げて提案する尊の色っぽい姿に。
莉子は慌てて視線を落としてウサギに集中した、軽い無視を感じた尊は明るく笑う。
「駄目かあ」
莉子は頬を染めて返事に変えた。
そして食後はいつものようにお弁当を受け取って帰る。
「あの、ごちそうさまです」
「いいえ、また明日ね」
そんな尊の挨拶を最後まで聞かずに、莉子は背を向けた。
(お、抵抗)
意図を悟って尊は微笑む。 莉子はキスなりなんなりされたくなくて、さっさと店を出て行った。
「なかなか手強い」
思わず呟いた尊を、ウェイターはいやらしい目つきで見上げる、ふられたのか、とでも言いたげだった。勿論尊は睨み付けて牽制することを忘れない。