野獣は時に優しく牙を剥く
「俺、澪を嫁にもらうから。」
「はい!?」
声が裏返って顔だけじゃなく全身が沸騰したように熱くなる。
結婚を前提にって祖父に言ったのも、可愛いとか、その他諸々も。
全ては彼の戯言で軽口で、ともすれば澪の側にいて助ける為の口実だったんじゃ……。
だってそうとしか思えない。
彼と自分とでは住む世界が違い過ぎるのだから。
だいたいついさっき、谷自身が夢を諦めた澪にガッカリしているような口ぶりだったのに!
澪の気持ちとは裏腹に谷は楽しそうに宣言する。
「本気で行くから覚悟しておきなよ。」
反論をさせないくらい夢を諦めたことを非難していた人が言う言葉とは思えない。
そう思うのに夢についての反論もおろか、自分のことを嫁にもらうとのたもう谷に返事を返せないまま、車は動き出して澪の心の中では嵐が吹き荒れていた。