野獣は時に優しく牙を剥く

 休憩室でコーヒーを飲んでいると珍しい人に声をかけられた。

「お疲れ様。最近は私より相川さんの方が谷くんと一緒にいるようだね。」

「いえ。そんなことは……。」

 にこやかな笑顔を向けて澪が座るベンチの端に腰をかけたのは前園だった。

 前園も休憩をしにきたのか、手にしているコーヒーに口をつけてポツリと呟いた。

「君達は不思議な関係だね。」

「不思議……でしょうか。」

 君達はもちろん谷と澪の関係だろう。

「谷くんも奥手というか、はたから見ててハッパかけたくなるよ。」

「ハッパって……。」

 苦笑する前園に澪は面食らった。
 前園が話す谷はまるで本当に澪のことを想っているように思えてしまう。

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