野獣は時に優しく牙を剥く

 聞き入って飲むことを忘れていた琥珀色の湖面に自分の顔が映って揺れる。
 コーヒーを見ると谷の綺麗な瞳を思い出すから不思議だ。

 一緒にいないのに、彼に見られているような気分になる。

 前園は躊躇なくコーヒーを飲み干して続きを話した。
 それは少し驚くことだった。

「特に彼は弱いところを見せないから誤解されやすいのだが、本来はとても努力家だ。
 噂で聞き及んでいるかもしれないが、彼の出生だけ見れば恵まれていると思うかもしれない。
 けれど本当に恵まれていたのかは本人にしか分からないのではないかな。」

 努力していないだろうとは言わないけど。
 それでもやっぱり持って生まれたたくさんのものが恵まれているとしか思えない。

 そんな澪の考えを根底から覆すことを前園は教えてくれた。

「実際、谷くんは家を出て親の援助は一切受けていないようだ。
 ここまで頑張っているのは彼本人の力のみだ。」

「え……。」

 言葉を失った澪を見て満足そうに前園は頷いた。

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