野獣は時に優しく牙を剥く

「パートナーとして隣に立って恥ずかしくないように。とまでは思わなくていいから。
 仕事仲間として、彼と対等でいたいとは思わないかい?」

 前園の言葉は深く澪の心に響いた。

 前にきつく谷に言われた諦めた夢のことがずっと澪の中で心に引っかかってふとした時に顔を出す。

 彼が言うように自分が夢を諦めたのを双子のせいにしていないか。
 今の自分に出来ることは本当にないのか。

 そんな自問自答を繰り返して澪の心の中で燻り続けた。

 続けて前園は澪を励ますように言った。

「自分のことを信じて。
 谷くんは私情を挟んで使えない奴を採用するほど脳みそが空っぽなわけじゃないよ。
 相川さんがalbaにとって必要な人材だと思ったからだ。」

「それじゃ」と前園は去って行った。

 谷と対等になんて恐れ多いけど、少しでも近づけたらとは強く思っていた。
 今はただ彼に温情をかけられてこの会社にいるだけだ。

 albaに必要な人材だと思ったから…。
 その言葉を何度も反芻して自分に何が出来るのか模索した。

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