野獣は時に優しく牙を剥く

「どこへ行くの?」

「え?」

 歩き出した方向が谷とは真逆で呼び止められた。

「招待したいのは自宅だよ。」

 芝居掛かった言い方をして、曲げた腕を澪の方へ向けられた。

「あ、の……。」

「エスコートさせてもらえない?」

 曲げられた腕は手を添える用だと気がついて目を見開いた。

「ッ!間に合ってますから!!」

 意味不明な拒絶の態度を見せるとククッと笑われた。
 からかわれたことが分かって顔が熱くなる。

「おじいちゃんに最近デートしてるのかって怒られてしまってね。
 俺は女心が分かっていないらしい。」

 クククッと笑う谷は澪をエレベーターの方へ促して歩き出す。

「すみません。
 祖父が分かったような口をきいて。」

「いや。実際に澪のことはおじいちゃんの方が分かっているんだろうなぁ。
 悔しいけど。」

 含みを持たせた言い方をして「それに…」と言い淀んで言葉を途切れさせた。


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