野獣は時に優しく牙を剥く
意味深な視線を向けられて居心地が悪い。
エレベーターに乗り込んだ彼の後に続いて澪もエレベーターへ乗った。
それに、の続きを待っていると谷は話を切り上げてしまった。
「このことは後にしよう。」
後に、何を話されるのか。
彼の気持ちが読めなくて、そもそも読むことは無理なのだと諦めることにした。
「私もお話ししたいことが……。」
「そう……。
それは、俺が嬉しいことだといいな。」
彼が自分のことを俺と言う時は仕事を離れた個人だというのが窺える。
彼、個人にこんな話をしていいのか……。
いや、個人だろうと法人であろうと彼に話さなければならないことだ。
澪は決心をして口を開いた。
「大学に行こうと思っています。」
「……そう。」
何を思っているのか、聞くのが怖くて一気に話してしまおうと続きを話した。
「通信なら働きながら勉強出来ます。
時間を見つけて勉強するつもりなので、谷さんさえよければ家政婦の仕事も続けさせていただきたいです。」
「そう。」
谷はいいとも悪いとも言わない。
それでも全部話さないわけにはいかない。