野獣は時に優しく牙を剥く

 美味しい食事に舌鼓をしながら話の流れはどうしてそんな話になったのか。
 デートを誘ってこなかった理由に話が及んでいた。

「アプローチしたかったけど澪に会ってしまったら最後……歯止めが効かなくなりそうだったからね。」

 楽しそうに話す谷の言っていることは耳をすり抜けていく。
 声のトーンとか振る舞いで、いくらなんでも冗談で言っていることくらい澪にも分かった。

 この人はどういう熱量で「嫁にもらう」と宣言したのか。
 さっきの、、謝りの発言の時は彼の心の奥に触れたような気がしたのに……。

 今の谷へ相槌を打つのならば「はいはい」だ。
 声に出していいのならば、ため息混じりに言いたい。

 それでもさすがにそれは控えて黙々と食べ進める澪に軽口が重ねられた。

「帰せなくなりますって言ったらおじちゃんはその方が有り難いって。
 俺はかなり信用されているみたいだ。」

 ソウデスネ。
 実の孫より可愛いんじゃないですか?

 憎まれ口を心の中で浮かべ、美味しい食事をとにかく咀嚼して飲み込んだ。

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