野獣は時に優しく牙を剥く

「ったく。聞きたいんだけど、俺に愛がないと聞いて何をそんなにショックを受けてるの?
 澪への気持ちがないって思ったから?」

「それは………。」

 からかわれたから?
 ううん。それだけじゃない。

「澪への気持ちがないと悲しいの?」

「それは………。」

 自分の気持ちの在り方が分からなくて首を振る。

 谷は断定的に言葉を発した。

「俺のこと好きなんでしょう?」

「違っ。」

 力一杯、顔を上げると谷は真っ直ぐに澪を見つめていた。

「俺は好きだよ。」

「何を、言って……。
 たった今、自分の中に愛はないって。」

「あぁ。なかったよ。
 仕事は忙しいし、恋人を作って恋人と過ごす時間なんて無駄で馬鹿らしいと思ってた。」

「だったら!!」

 だったらこの時間も無駄で、俺の嫁にすると言ったのは全部戯言で。
 それなのに簡単に好きだなんて言わないで!!

 憤慨する思いに何故だか涙が溢れそうになって顔を覆った。

 もう聞きたくない谷の声は容赦なく澪に向けられて紡がれる。


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