野獣は時に優しく牙を剥く
連れて来られたのはタワーマンション。
オートロックを解除して立ち入った場所は気品溢れるエントランスホール。
「お帰りなさいませ。」
ロマンスグレーの紳士が丁寧に頭を下げて出迎えた。
谷は軽く手を上げて応えている。
コンシェルジュ……ってやつだよね。
執事がいるマンションって、、世界が違い過ぎる。
慄く気持ちを表情に出さないようにすることが精一杯で、無言のまま彼についていく。
フロントのすぐ脇にラウンジスペースもあるエントランスホールはここだけで澪の家が丸ごと1軒入る広さがありそうだ。
座り心地の良さそうなソファが並べられているが、澪にとっては落ち着かないことこの上ない。
エレベーターホールへ入る前にもオートロックがあった。
そしてエレベーターに乗る時にも何か操作をしている。
厳重なセキュリティが住む人の価値を高めているような気さえした。