野獣は時に優しく牙を剥く
「……分かりました。
谷さんも必ず私から離れていきます。」
抱き寄せている谷を押して離れるとその場に立ち上がる。
服に手をかけてボタンを外し始めた。
「ちょ、ちょっと待って。
男として嬉しいんだけど、いや、そうじゃなくて。」
慌てる谷は澪の真剣な表情を見て、口を噤んだ。
はらりと服が床に落ちる。
彼の琥珀色の瞳が自分の肌を見ていると思うと体中が心臓になったみたいに思えて、手が震える。
震える唇で息を深く吐くと、ゆっくりと後ろを向いた。
背の向こう側で息を飲んだのが分かった。
「これは………。」
背中にある赤い痣。
それは生まれた頃からあった。
両親は痣のある澪を災いの子だと陰で話していたのを聞いた。
古い言い伝えで前世の約束がある印だと言われたことがあるが、それが何かは分からない。