野獣は時に優しく牙を剥く

 祖父だけが、澪のところへ王子様が迎えに来てくれる目印だと言ってくれた。

 けれど今は祖父の言葉を信じていられるほど純粋な気持ちは持ち合わせていなかった。

 その痣は赤く不気味なほど……。

「綺麗だ。もっとよく見せて。」

「え、、。気持ち悪く……ないんですか?」

「どこが?澪の白い肌に赤が映えて綺麗だ。
 これは赤い……蝶?」

 羽を閉じた横向きの蝶は幻想的でいて、どこか不気味だ。

 ただの痣とは思えなくて……。

 しばらく見ていた谷が無言で床に落ちた服を澪にかけた。

 そして何も言わないまま、部屋を出て行った。

 やっぱり。彼も同じなのだ。
 パッと見は綺麗に思えたかもしれない。
 でもやっぱりよくよく見れば禍々しさは隠しきれなかったんだ。

 ポタポタと床に涙が落ちる。
 自分の気持ちが痛いほど分かった。

 私、谷さんに好かれていたかった。

 今さら気づいても彼は自分を愛してはくれない。
 せめてもっと早く気づいて痣を隠し続けられたら……。

 でもそれももう遅い。

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