野獣は時に優しく牙を剥く
11.運命?それとも……
カタンと音がして、肩を揺らす。
「ごめん。立って待ってたんだ。
そんな格好で突っ立ってちゃ風邪をひくよ。
ほら。おいで。」
拍子抜けする優しい声。
「どうして……戻ってきたの?」
「ん?どうした?敬語、忘れてる。
その方が俺は嬉しいから、これからはそうやって話してよ。」
彼の態度がつかめない。
脚は知らぬ間にガクガクと震えて立っているのがやっとだ。
「気持ち悪くなって私から離れていったんじゃ……。」
自分で言った言葉に抉られるような痛みを感じる。
「これを見て。」
言われて視線を上にあげた。
谷の手には小さな箱。
箱というよりもケースと言う方が正しいかもしれない。
漆塗りなのか光沢のある黒色は上品な艶を放っている。
ケースは印鑑入れか何かだろうか。
片手に収まる幅で長細い。
艶めく黒地の上には金色の紋様が映える。
「これ………。」