野獣は時に優しく牙を剥く

「谷さんに、、好いてもらえて嬉しいとは思います。」

「そう。」

 心底安堵したような声で呟いた谷に心苦しかった。
 澪は本音を吐露する。

「嬉しいです、けど、、でも………。」

 言葉は尻すぼみになって上手く伝えられない。

「うん。いいよ。
 拒否されなかっただけ大きな進歩だ。
 そのうち俺なしじゃいられなくするから。」

「す、すごい自信ですね。」

「自信くらい持ってなきゃやっていけないさ。」

 いつもの茶化したように言う谷に少しだけホッとした。

 自分は幸せになってはいけない。
 本当はまだ谷に話さなきゃいけないことがある。

 それなのに彼がくれる温もりを、言葉を、自分から手放すようなことを言い出せなかった。
 消えてしまいそうに弱々しい今の谷の手を離してはいけないと思った。

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