野獣は時に優しく牙を剥く

 込み入った話をした気恥ずかしさも相まって時計を確認する。
 今さらだけれど車で送ってもらわずに電車で帰れるうちに帰りたい。

 そんな澪の心を読んだように谷が言った。

「今日は側にいて欲しいな。」

 寂しそうに言われると強く出られない。
 どうやら自分は谷のお願いに弱いようだ。

「おじいちゃんが、、心配するので。」

「フッ。泊まってくれた方が有り難いって。
 平日は帰してくれる分、土曜は泊まらせてやって欲しいって。おじいちゃんが。」

 そうだった。
 祖父は谷の味方なのだ。

「でも颯太と浩太も心配ですし……。」

「じじが一緒に寝るから心配するなって。」

 祖父に声色を似せて話す谷に目を丸くする。

 言い訳は使い尽くしてしまった。
 もう断る理由がない。

「心配しなくても澪がいいって言うまで待つよ。」
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