野獣は時に優しく牙を剥く

 淡い光を浴びてぼんやりと浮かび上がる人影。

「谷……さん?」

「あぁ。悪い。起こしたか。」

 澪の方へ振り返る谷はパソコンに向かって何か作業をしていたようだ。

「今、何時ですか?」

 パソコンに向き直って確認した谷が時を告げる。

「午前3時を少し過ぎたところ。
 まだ寝ておいた方がいい。」

「……谷さんは?」

「俺か?
 俺はアイディアが次から次へ羊並みに頭の中を通り過ぎて眠れそうにないよ。
 忘れないうちに書き留めておきたい。
 元々が夜型だから気にしなくていい。」

 羊が1匹、羊が2匹……。

 アイディア1つ、アイディア2つ。
 アイディアが100くらいまで浮かべば眠れるのかしら。

 アイディアというのは仕事のことだろうから、さすがとしか言いようがない。

「無理、しないでくださいね。」

「あぁ。ありがとう。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

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