野獣は時に優しく牙を剥く
澪は谷よりもずいぶん年下のはずだ。
その澪を捕まえて母親像に当てはめるだなんて……。
「私のこと小娘と思っていたのに?」
「あぁ、思っていたのに。
今は小娘とは思っていないけどね。
でも……澪こそお母さんが恋しいだろうにごめん。」
「それは、いいんですけど……。」
親との関係を誤魔化すように言葉を濁す。
「少し寝させてもらえないかな。
朝食を摂れる頃になったら起きるよ。」
「はい。声かけますね。」
「……あぁ。」
そろりとベッドから這い出ようとした澪の手が取られて動きを止める。
「澪は僕の恋人ってことで良かったのかな。」
僕の……恋人!?
「願わくば、目覚めのキスで起こしてよ。」
取られた手は顔の側まで引き寄せられて手の甲へ唇を押し当てられた。
柔らかな感触は全身に電気を走らせるような刺激を澪に与えた。