野獣は時に優しく牙を剥く
12.繁栄をもたらす娘
朝ごはんの用意が済んで躊躇しながらも寝室へ向かう。
念の為、ノックをすると中なら「はい。どうぞ」と返事があって拍子抜けしつつ扉を開けた。
「あぁ。おはよう。
起こしに来てくれたんだね。」
ベッドの上に座って伸びをする谷は既に起きていたようだ。
「いいにおいがしたから、自然と目が覚めたよ。
こういう朝もいいね。」
爽やかな微笑みを浮かべた谷は呆けた顔のまま立ち尽くしている澪へ歩み寄り、頭を軽く撫でた。
「どうしたの?お寝坊だと思われてたかな?」
「い、いえ……あ、はい、そうですね。
スッキリ目覚められていたので少々驚きました。」
「ハハッ。朝から固いなぁ。」
澪の隣をすり抜けてリビングへ向かう谷の背中をぼんやり見つめて、やっぱり寝ぼけていたんだ。と、一人納得した。