野獣は時に優しく牙を剥く
「今、朝食中なんだ。
どこかで時間を潰してから出直してよ。」
『いやにのんびりだね。
朝食というよりブランチじゃないか。』
声からして男の人のようだ。
谷の話し方も相手の話し方もフランクで仲の良さが窺える。
「休日くらいのんびりさせてくれないか。」
『のんびりさせてくれないのは、そっちだろう?兄さん。』
兄……さん。
ということは来たのは谷の弟だ。
「とにかくあと30分以降に。」
『了解。』
渋々、というのが声だけでも感じ取れた。
その後、ダイニングへ戻った谷が経緯を説明してくれた。
「靴部門は関連会社としてアペルトという別会社になっていて、弟はその会社に勤めている。
孫だからって関係なく弟は平社員。
厳しいだろ?祖父は。」
そのアペルトで働いている弟が来たのは、打ち合わせする為?
けれど、どうしてここへ?
「祖父と作ればいいって澪の希望とは、ちょっとズレちゃったね。」
「いえ、それはいいんです。
そうなったら素敵だなって思っただけですので。
弟さんとは仲がいいんですね。」