野獣は時に優しく牙を剥く
確認が終わるとストッキングもスカートも履いた萌菜がぽつりぽつりと話し始めた。
「私の家族は兄弟が多くて、姉も兄も私の下に妹や弟がいるので……可愛がってはくださいましたが、私のことは目新しくも何もないんです。」
しっかりとした口調で話す萌菜はお嬢様の気品に溢れていて、それでいて年相応の悩みがあったのだと親しみを感じた。
思い出話は谷兄弟との関係性に及んだ。
「龍之介さんと虎之介さんとは幼馴染で、小さな頃からよくしてくださいました。
特に虎之介さんとは歳も近くて、虎之介さんは末っ子でいらっしゃったので妹が欲しかったと、本当の妹のように可愛がってくださいました。」
谷の家に来てからの虎之介の対応と重なって、だからこそ虎之介が萌菜の代わりに訴えていたことが理解できた。
妹を想う兄ということだったのだ。
ずっと何を考えているのか分からなかった萌菜の嬉しそうに話す姿はとても可愛らしく、聞いている澪を和ませた。
けれど、その表情も一瞬だけ。
すぐに表情は曇ってしまい、この家に来てからずっと同じ、何かに思い悩むような自信がなさそうな顔をした。