野獣は時に優しく牙を剥く
ソファに座り無言で待っていた谷兄弟が戻ってきた澪と萌菜を仰ぎ見た。
すると報告する前に谷が確信めいた言い方で澪へ確認した。
「繁栄をもたらす印は無かったでしょう?」
「……兄さん!」
虎之介は堪らずその場に立ち上がった。
その虎之介へ谷は静かに告げた。
「幼馴染だからさすがに内ももだろうと印があれば気がつくものだよ。
俺たちが気づかなくても俺たちの親は気づくはずだ。
それに女の子だし、萌菜の家柄なら目立つ印があったら赤ちゃんの頃に取り除く手術くらいしそうだ。」
谷は知っていて澪へ確認させたのだ。
澪は萌菜の太ももを見て、目を丸くしたというのに。
萌菜の太ももには確かに赤い印があった。
けれど、それは肌に元よりあった痣ではなく赤い何かで描かれたような違和感を感じた。
確認した時の澪の表情から何かを感じ取ったのか、萌菜から打ち明けられたのだ。
「印を描けば龍之介さんの結婚相手になれると虎之介さんに言われたんです」と。