野獣は時に優しく牙を剥く
谷は小さく溜息を吐いて再び虎之介へ話しかけた。
「どうせ俺を谷の家へ戻らせようって魂胆からだろうが、俺は俺の好きなようにやりたい。
そのせいで虎に迷惑をかけているのも分かってる。すまない。」
谷の謝罪の言葉を聞いて虎之介は頭を左右に振った。
「それは、そんなことはいいんだ。
ただ、俺は兄さんにそんなどこの馬の骨か分からないような女じゃなくて……。」
さっきまでの威勢は半減したものの未だに澪への嫌悪感を露わにする虎之介へ萌菜が意見した。
それは今までの自信のなさそうな雰囲気からは想像し得ない力強い声だった。
「いいえ。澪さんは優しい方です。」
「萌菜……。」
虎之介と萌菜はしばし見つめあって、それから虎之介の方が力なく顔を俯かせてしまった。