野獣は時に優しく牙を剥く
谷は小さく笑って澪へ歩み寄った。
「言ったよね?澪を縛りたくないんだ。
俺は澪の純粋な気持ちが欲しいし、ね。」
「純粋な……。」
「俺との関係とか、俺の家柄とか。
そういうの全部取っ払って俺自身を見てよ。」
「谷さん、自身。」
「そう。だから。龍之介って呼んで?」
澪の頭に手を置いて、そっと撫でた。
すぐ近くで見つめられて鼓動が速まる。
緊張で唇が震えながらも彼の申し出に応えたくて口を開く。
「龍、之介、さん。」
「……うん。やっと呼んだ。」
体を屈めた龍之介は後頭部に手を添えて、そっと澪の唇に自分のそれを重ねた。
「澪が繁栄をもたらす娘だから好きなわけじゃないってことくらい分かってるよね?」
囁かれて戸惑いながらも頷くともう一度唇は重ねられた。