野獣は時に優しく牙を剥く

「で、この有様。」

 彼の長く美しい指先が部屋の中を指し示す。
 そこには玄関まで荷物が溢れ、奥に見える開かれたままのドアの向こうにリビングのような……服が脱ぎ散らかしてあるような……。

 つまり、汚部屋だ。

「この有様……は、タワーマンションとは関係ないのでは。」

「いや〜。痛いとこつくね。」

 彼は「まいったなぁ〜」と頭をかきながら笑っている。
 恥ずかしいと思う気持ちは多少あるみたいだが、悪びれる様子を感じられない。

 澪にしてみれば雇用主が汚部屋の住人だろうと給料さえ払ってくれれば構わないのだけれど。

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