野獣は時に優しく牙を剥く

「と、いうわけだから頼んだよ。
 僕は会社に戻るから。」

 言い残して去ろうとする谷を慌てて呼び止める。

「ま、待ってください。
 何を、、するんでしょうか。」

 一瞬、目を見開いて、それから谷は目を細めて微笑んだ。
 柔らかな微笑みはキラキラしていて心臓に悪い。

「掃除とか片付け苦手だからさ。
 お願いできるかな?
 今日は有休扱いにしておくよ。
 それで良さそうなら給料と別に手当てを出すから。」

 その手当ては愛人になるくらいもらえるんでしょうか。
 そう聞きたいけれど、掃除した部屋が彼のお眼鏡に適うかどうかは分からない。

「分かりました。
 精一杯頑張らせていただきます。」

「うん。無理しないで。
 あぁ。それからこれ。」

 近くにあったメモ用紙にサラサラと何かを書いて澪に渡す。

「合鍵にマンションを出るオートロックの解除方法。」

 あまりに簡単に渡されて逆に驚いて押し返す。

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