野獣は時に優しく牙を剥く
「本当は想いを伝えてくださった時に話さなきゃいけない話だったと思います。
けれど話せなかった。
そのくらい谷さんの側にいたかった。
でも、そんな自分の強欲のせいで、また周りを不幸にしてしまった。
だから、私は……。」
続きの言葉は声に出せなかった。
柔らかな感触が唇に触れて、邪魔をされたから。
唇に重ねた唇をもう一度、重ね合わせてから龍之介は頭をゴチンと軽くぶつけた。
「澪は全部を自分のせいにし過ぎだ。
両親の不仲は澪のせいじゃないし、おばあちゃんが亡くなったのも寂しかっただろうけど、澪のせいじゃない。
今回のことだって違う。」
「違うくなんて……。」
「違うよ。
そう思うのなら聞いてみたらいい。
おじいちゃんがなんて言うか。」
「それは……。」
例え、そう思っていたとしても優しい祖父が澪のせいだ!と言うわけがない。