野獣は時に優しく牙を剥く
ため息を吐くと龍之介は澪の頬を愛おしそうにそっと撫でてながら囁いた。
「そう思うのなら俺の側にいると言って。
俺は澪が側にいるというのなら協力を惜しまないよ。
最初にそう言ったはずだ。
それと、2人でいる時に『谷さん』なんて呼ぶのなら『龍』って呼ぶしかない状況に追いやりたくなるんだけど。」
谷さんでも、龍之介さんでもなく、龍と呼ぶ時。
それは彼の腕の中で愛されて余裕がなくなって息も絶え絶えに彼を呼ぶ時の呼び方……。
「谷さ……あ、いえ、あの、龍之介さん。」
真っ赤になりながら言い直すと龍之介はクスクスと笑った。
「俺もさすがに双子が隣にいるのに、そんなことしたくないけどね。」
いたずらっぽくウィンクして、キスをする龍之介の胸に顔をうずめた。
本当に、このまま彼の側にいていいのか。
分からないけれど、分からないのに、彼の腕の中は温かくて、もう少しだけ甘えていたかった。