野獣は時に優しく牙を剥く
「澪……。」
龍之介は心配そうに呟いたが、自分の祖父が言い出したら聞かない人だとよく心得ているらしく言われるまま個室から出て行った。
「まぁ、座りなさい。」
「はい。失礼します。」
円卓を挟んで向かい合って座る。
「谷獅子之介だ。」
獅子之介。知ってはいた名前だけれど、名前負けしないさすがの風格に圧倒されて「相川澪です」と消えそうな声で挨拶するのがやっとだった。
「虎之介のことは聞いておる。
澪さんが2人の仲を取り持ったとか。」
「いえ。私はそんな……。」
テーブルに両手を組んでのせる獅子之介は「謙遜せずとも萌菜さんからも聞いておる」と朗らかに言った。
「その上、あんなに嫌がっていた龍之介が靴の仕事に携わるという。
まぁ、龍之介は自分の会社の為だと言うし、実際に靴の方をやるのは虎之介だろうが……。
それにしてもすごい変化だ。」
そこまで毛嫌いしていたのかな。
谷の家を出てまで、自分の力で頑張ってきたのだから、それはそうかもしれない。
「澪さん。それらは全てあなたのお陰だ。」