野獣は時に優しく牙を剥く

「そんなことは……。」

 思わぬ賛美に恐れ多くて両手を振って訂正しようとしていると、獅子之介の次の言葉で固まってしまった。

「あなたは繁栄をもたらす娘さんだね?」

「え……。」

 突然言われて言葉を詰まらせると「悪いが調べさせてもらった」と言われれば誤魔化すことは出来ない。
 母や父などからいくらでも禍々しい痣があったことを聞けるだろう。

 自分は龍之介に守ってもらって幸せまで与えてもらっているのに、何も返せないどころか彼が嫌がっている谷の家へ舞い戻らせなければならない存在だなんて……。

 自分の運命に最近はいい方向へ考えていたのに、宿命からは逃れられないのだと再び呪いたい心持ちになった。

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