野獣は時に優しく牙を剥く
「俺にとって今の生活は何ものにも代え難いよ。
たまに澪不足で限界になるのを除けばね。」
いつものように茶化して笑う龍之介の顔へ唇を寄せた。
目を丸くした龍之介が「可愛い不意打ちだね」とお返しのキスをする。
「きっと俺たちは澪の痣といい、出会うべくして出会ったんだと思うよ。
出来ればもう少し俺の若いうちに年齢も近ければ二の足を踏まなくて良かっただろうけど。」
「二の足?」
「さすがに30過ぎのおっさんが、就職してるからといって10代の子に手を出すわけにはいかないでしょ?」
そんな……頃から……。
「まぁ、そのお陰で2年間、澪の人となりを観察出来たけどね。
それに仕事をがむしゃらに頑張る理由も増えた。」
「どんな理由です?」
彼はきっといつだってがむしゃらに頑張ってきたはずだ。
これ以上、頑張る理由が増えるだなんて心配してしまう。