野獣は時に優しく牙を剥く

「龍之介さん?疲れてしまいました?」

 澪に心配顔で覗き込まれて我に返る。

「ん?いいや。大丈夫。
 それより、いつになったら澪は敬語が抜けるのかな。」

 何気ない一言は周りの奴らの反感を買った。

「谷さん。無理に決まってますよ。
 相川さんに龍之介さんと呼ばせてるだけすごいですよ。」

 かなり飲んでいるのか最初にからんできたのは原田。
 実は澪のことを狙っていたことを俺は知っている。
 澪には絶対に言わないし、言ったところで渡したりもしないのだけど。

「そうですよ。
 お願いですから、澪ちゃんへの色気をダダ漏れさせるの社内では控えてくださいね。」

 相川ではなくなる澪を澪ちゃんと呼ぶのは森本だ。
 澪へ寄ってくる輩から澪を守っていてくれた俺にとっては有り難い救世主だ。

 森本嬢のお眼鏡にかなった俺は澪との接見が許されたのだから。
 それでなかったら森本からの鉄槌を受ける羽目になっていた。
 社内外の男どもが何人、森本に屍にされたか……。

 澪に男っ気がないと心配する素振りをしつつ、厳密な吟味をしてほぼ全てを壊滅させていたのだから末恐ろしい。

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