野獣は時に優しく牙を剥く

 そしてまた順番に感謝を述べていく。
 涙する者、笑う者、様々な反応を見せてくれる優しい人達に囲まれて澪は幸せそうだった。

 俺の祖父、俺の両親、澪のおじいちゃん、虎之介と萌菜に、双子。
 家族へもメッセージを送り、涙に濡れた澪が改めて姿勢を正した。

「長い間ご静聴いただき、ありがとうごさいました。
 最後に、自分の両親へ。
 恥ずかしいですが、あまり仲がよくなくてこの場にいません。
 それでも……メッセージを伝えたいと思います。」

 これは澪からの提案だった。
 会場にはいないけれど読み上げたい。
 周りの人に両親と仲が悪いことを伝えても、自分のけじめとしてメッセージを読みたいと。

 先ほどとは違った緊張の色合いを浮かべた澪は控えめに口を開いた。

「お父さん。お母さん。
 私は龍之介さんと出会えて、龍之介さんと幸せになります。
 どうかお父さん、お母さんも幸せになってください。
 私を、産んでくれてありがとう。」

 涙で消えそうになりながらも読み終えた澪を抱き締めた。
 周りからは盛大な拍手が鳴り止まない。

 その影に隠れて澪の母親は泣いているようだった。
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