野獣は時に優しく牙を剥く

「なんだか癒されたよ。
 お母さんの匂いってこんな風かなぁって。」

 彼の言葉に深い意味を探してしまう澪は体を硬くした。
 切なくなるような寂しい声色。

 谷自身は気にも止めていない様子で起き上がって大きな伸びをした。

 そして近くにあったタオルを手にして顔へ押し当てた。

「ははっ。お日様のにおいがする。
 すごいな。」

 こんなことで破顔する彼に目を丸くした。

「普段、服はどうされているんですか?」

「限界がくるまで着て後はポイ。」

「ポイ?」

「あぁ。ポイ。」

「まさかまとめてゴミ袋……。」

「よく分かったね。
 それで間違って捨てたりして失くさないように大切な書類は持ち帰らない癖がついたよね〜。」

 自慢げに言われても彼の生活能力を疑ってしまう。

 部屋の隅に何個かゴミ袋があって、中身は服や下着に靴下も入っていた。
 まさか捨てる用だとは思っていなくて洗濯してしまったけど……。

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