野獣は時に優しく牙を剥く
「あ、の。どこへ?」
部屋を出て、すぐ隣の部屋と思っていたような澪は歩き続ける俺へ不安そうな声を出した。
「少しは俺にも格好つけさせて?」
最上階に上がるとそこはスイートルーム。
どこにいたって澪といられればいいのだけど、甘い夜にはそういうエッセンスも必要だと思うんだよね。
「わぁ。綺麗……。」
窓から見える景色に目を奪われる澪を後ろから抱きしめる。
「龍之介さん……。」
「本当は一日中抱き合っていたいくらいだけど、それは叶わないからね。
せめて濃密なひと時を過ごすつもりだから覚悟してよね。」
目を丸くした澪が慌てたような困ったような顔をして、その顔も可愛らしい。
「前のスキーへ行く双子が俺へ言伝したこと、今なら叶えてあげられるかな。」
なんのことか思い出したのような澪が身を乗り出して「なんですか?ずっと秘密にして」と頬を膨らませた。