野獣は時に優しく牙を剥く
「他人にプライベートな部分へ踏み入られるのが苦手なんだ。
だから頼んでいた家政婦も解雇しちゃったし。
と、いうかあんまり見つめられると照れるんだけど。」
前を向いて運転していた彼がチラリと目だけをこちらへ向けた。
これも彼の軽口だと分かっているけれど「すみません」と視線を彼から外す。
「でも、解雇って……。」
「そ、辞めてもらったんだ。
だからあの有様になっちゃって。」
あの有様とは関係ないんじゃ…と思いつつも、それとは別のもっと気になるところを質問する。
「私だって他人です。
その、良かったんでしょうか。」
見知らぬ他人よりもタチが悪いんじゃないだろうか。
部下にプライベートなんて見られたくないんじゃないかな。