野獣は時に優しく牙を剥く

 澪の心配に谷はフッと優しく笑った。

「そういう心配してくれる子だから相川さんは大丈夫なんだよ。
 家政婦ってさ、だいたいが女性でね。
 帰宅を待たれて迫られたりすることが続いて、辟易していたんだ。」

「それは、、大変でしたね。」

 家政婦がお客様に恋愛感情を持つことを禁止することくらい当たり前に決められているだろうけれど。

 彼みたいな眉目秀麗な顧客だとしたら気持ちが揺らいでしまっても責められないなと思ってしまう。

「澪ちゃんに迫られるのなら大歓迎なんだけどね。」

 極上の笑みを向けられて、こちらは顔が引きつってしまう。

「そういう浮ついたことをおっしゃられているから家政婦の方も勘違いされてしまうのではないですか?」

「ははっ。手厳しいね。
 さぁ。ここかな?着いたよ。」

 言われて車窓から外を見回した。

 見慣れた我が家も変わった人物と訪れるとどこか別の場所に来てしまったように感じる。
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