野獣は時に優しく牙を剥く
「そうだね。僕には分からないよ。
だけど譲れない。」
意志の強い真っ直ぐな瞳に見つめられて言葉に詰まる。
「…ッ。どうして………。」
「毎日、眠そうな顔をして出社されると心配にもなるよ。」
「心配………。」
穢れのない澄んだ琥珀色の瞳に射抜かれると全てを見透かされている気持ちになってしまう。
「僕の一任で採用を決めた君を劣悪な環境で働かせてると思われたくないからね。
それに……今、我が社は過渡期なんだ。
のんびり他で働いてもらう暇はない。」
近づいてきた谷は澪の頭をかき回して、何度か頭の上で手を弾ませた。
それは駄々っ子を窘める大きな手。
「行くよ。」
腕を引かれ若干の抵抗をしつつも、彼に見つかってしまっては逃げられないと諦めていた。