野獣は時に優しく牙を剥く
「相川さん。君の夢はなんだったかな?」
「夢………。」
質問の意味が上手く飲み込めなくて谷を凝視する。
綺麗な肌が微かに動いて琥珀色の瞳は長い睫毛に隠されるように細められた。
「夢、あったでしょう?
忘れてるみたいで僕は残念だよ。」
穴が空くほど見つめても彼の真意は分からない。
ただ、夢があったかと問われれば思い出す夢はとうの昔に進学希望と共に捨てて来たものだ。
それを、どうして谷に聞かれなきゃいけないのか。
「面接の時。もう忘れちゃったかな。
僕もその場にいたんだけど。」
遠くを見るような目をしてひどく昔のことを話す口ぶりで谷は話し始めた。
澪自身も記憶の彼方に置いてきたと思っていたものはたかだかまだ2年しか経っていない。
「あの日も寒かったよね。
雪が降りそうな薄曇りの日だった。」
谷の一言で胸の奥にしまっていたそれは燻り簡単に顔をのぞかせた。