野獣は時に優しく牙を剥く

 弁護士事務所を出て、息をつく。
 見上げた空は寒さで澄み切っていて、どこまでも青くまぶしかった。

 同じ空なのに、なんて残酷なんだろう。
 そんなことを思う。

 お金に困っていることはすぐに見抜かれて昨晩のうちに言い含められていた。

「逃げずに明日、ここへ行くように。」

 渡されたメモ用紙には今しがた澪が出てきた弁護士事務所の住所が書かれていた。

 手には紹介された弁護士が作ってくれた債務計画書。
 債務処理をして返せそうな目処が立った。

 そして、担当した弁護士に次の行動を指定されていた。

「必ずお礼を言いに谷さんのところへ顔を出して。」

 逃げ出すと見越して先回りした谷からの言伝だろう。
 腹をくくって言われた通りにするしかなかった。

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