野獣は時に優しく牙を剥く

 表面上は穏やかな雰囲気なのに喉の奥がキュウッと鳴った。
 全てを見透かされている気がして恐怖のようなものを感じた。

 彼から性急に逃げなければいけない思いに駆られる。

 もちろん谷はどこ吹く風で一人話を進めている。

「まぁいいよ。色々は追い追いだ。
 せっかくおじいちゃんが喜んでくれているんだから週末は相川さんの家でお呼ばれしたいな。」

 それはもちろん恋人としてだろう。

 だからどうしてそうなるのか。
 理解出来ない気持ちをぶつけても彼は取り合ってくれないことが目に見えていた。

 だからただ本音だけがポロリとこぼれた。

「ぬか喜びなだけなのに……。」

「本当にしたらいいさ。」

「はい?」

 思いがけない一言に声が裏返る。

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