野獣は時に優しく牙を剥く
太陽の陽を浴びて燦々と輝くオフィスビル。
その一角に澪の勤める『alba (アルバ) 』はあった。
albaはモバイルヘルスケアを開発運営をする会社で、若き谷CEOが興したもの。
澪はその会社の事務員をしていた。
なんの取り柄もない澪を採用したのはトップの鶴の一声だったことを入社して間もない頃に聞いた。
まだまだ小さなベンチャー企業でトップのワガママも簡単に通るのだろう。
先行き不透明なベンチャー企業でも、就職先に困っていた澪には天から伸びる蜘蛛の糸だった。
そこに勤めて2年。
慣れ親しんだ職場を抜け、執務室の前で息を吐いた。
ノックをして「相川です」と名乗ると中から「どうぞ」と返答があった。