野獣は時に優しく牙を剥く

「欲したモノって……。」

 探るように前園を見つめても何も読み取れない。
 会社を動かすような人物は簡単に心が読まれないようなポーカーフェイスを備えているのかもしれないと澪は思った。

「気に障ったかな。
 物でも人でもってことなんだけど、、。」

「あ、いえ。そういうことではなくて欲しているモノとは何でしょう。」

 目を丸くした前園が何を思ったのかフフッと優しく微笑んだ。

「気がついていないのならいいんだ。
 ただ珍しく谷くんが本性を隠せないほど相川さんに迫っていたから。」

「私から、、何を奪いたいのでしょう。」

 何も持っていないと思っていた。
 そもそも自分が持っていない地位や名誉やお金は存分に彼は持っているはずだ。

 つまり、、たまに口にする家族のぬくもりとかそういうことなら、自分から祖父を奪おうとしているのか、それとも谷も知っているような会わせていない澪の大切な人……?


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