野獣は時に優しく牙を剥く

 柔らかな表情を浮かべた前園は澪を安心させるように言った。

「谷くんの本質は奪うんじゃなくて与える方だ。
 幸せな王子という童話を知っているかい?」

「幸せな……王子?」

「たまに心配になるよ。」

 谷を思って彼のことに思いを馳せているのか子どもを思う父親のような顔をして、谷が歩いていった方を見つめている。

 そしてフッと澪の方へ視線を戻して話を終わらせてしまった。

「呼びに来た私がここで油を売っていては谷くんに叱られそうだ。
 何か困ったら相談に乗るから。」

 手を軽く上げて「じゃ」と前園も去っていった。

 前園が谷に力を貸そうと思ったからこそ実現したalba。
 それだけの魅力が谷には備わっていて、それは……幸福な王子だから?

 幸福な王子。それは澪のイメージする谷にピッタリなネーミングだった。

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