野獣は時に優しく牙を剥く

「澪。」

 急に名前を呼ばれて胸が鷲掴みされたように痛くなる。

「な、なんですか?急に。」

 真っ直ぐに見つめる視線から逃れられない。

「一夜を共にした仲だ。
 親密になってもいいだろう?」

「あ、の、ちょっと語弊があるんじゃ。」

 一夜を共にしたって本当に言葉通りの意味で、共にしただけだ。
 それとも自分の気づかないうちにそれ相応の関係になっているとでも………。

 パニックになりかけている澪に安心させる言葉がかけられる。

「心配しなくても側で寝ただけだよ。」

 ホッと息をついたのも束の間。

 隣から伸びてきた手は澪の顔にかかる髪を耳にそっとかけた。
 そのまま指先は頬に優しく触れて、くすぐったいというよりも今はとても恥ずかしい。

 指先は頬を滑り、唇に触れた。

 柔らかく向けられる眼差しが愛おしいものを見つめているような錯覚に陥りそうで鼓動はドキドキと速くなって思わずギュッと目をつぶった。

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