野獣は時に優しく牙を剥く
緊張の面持ちのままドアを押す。
開口一番、澪は文句が口をついて出ていた。
「こんなにしてもらう謂れはないです。」
デスクの書類から目を離し、入室した澪を真っ直ぐに見つめる谷へと訴える。
いくら小さな会社とは言え、個人的に助けてもらう義理はない。
「黙って恩を受けておけばいいのに。」
クスリと笑う谷はどこか澪の言葉を予想していたようにも取れた。
デスクの上で手を組み、彼は持論を展開させる。
「君が僕の部下として十分に働いてくれれば、それでいいよ。
それが僕の評価にも繋がる。」
会社のトップが誰に評価されるというのだろう。
怪訝な顔から言わんとすることを察したように付け加えられた。
「使えない奴を雇うようなトップに誰もついてこないよ。」
なんとなく理解はするものの、それでも解せない気持ちは心の中に蔓延って不信感を拭い去れない。